AI絵師は絵師ではない?絵師を名乗るなと言われる理由を解説

この記事ではAI絵師が絵師ではないと言われる理由や「AI絵師」の名称に関する考察について解説しています。記事を読めば「AI絵師」に関する論争の全体像を客観的に理解し、自分なりの考えを持てるようになります。
記事の後半では「クリエイターがAI時代に生き残るための戦略」も紹介しています。
- 「AI絵師は絵師ではない」と言われる具体的な理由
- 「絵師」という名称をめぐる肯定派・否定派の意見
- AI創作をめぐるトラブルを避けるためのポイント
- これからのクリエイターに求められるスキルや視点
「AI絵師は絵師と名乗るな」と言われる理由

なぜ「AI絵師は絵師ではない」という厳しい意見が出るのでしょうか。具体的な理由を詳しく解説していきます。
- 自分の手で書いていないから
- 創作意図を完全に反映できないから
- 誰の作品なのかわからないから
- 練習の積み重ねがないから
- 学習データに信頼性がないから
自分の手で書いていないから
AI絵師が絵師ではないと言われる最も大きな理由は「自分の手で絵を描いていないから」です。絵師なのに自分で描いていないという矛盾に違和感を感じる人は多くいます。
AIによる画像生成はAIに指示をするのが主な作業になるため、自分で作画をしません。この違いに対して「技術(アート)の根幹が欠けている」と捉える意見が見られます。
自分で絵を描いていることを絵師の必須条件と考えている人が多いため、AIで画像を生成する人は絵師ではないといった意見になるのです。
創作意図を完全に反映できないから

AI画像生成では作者の意図を作品に反映させることが難しいです。AIに細かく指示を出しても、意図しない要素が出力されることは多くあります。作品の全てに作者の意図が及ばない状態は、作品に対する完全な責任を負っているとは言えない、と考える人がいます。
手描きの絵師はキャラクターの表情や背景の細部に至るまで、自身の明確な意図にもとづいて作画します。無意識の手癖であったとしても、それは作者の経験と選択の結果です。作品の全ての要素に対して「なぜこう描いたのか」を説明できます。
誰の作品なのかわからないから
生成されたイラストが一体誰の創作物なのかという点が曖昧であることも、議論の的になっています。AIイラストの創作プロセスは「人間の指示」と「AIの描画」に分かれます。構想を練り、指示を出したのは人間ですが、実際に膨大なデータから画像を生成したのはAIです。
そのため、最終的なアウトプットの功績が人間にあるのか、AIにあるのかが明確になっていません。
簡単な指示で質の高いイラストが生成された場合、人間の貢献度は低いと考えられます。この状態で「自分が描いた」と主張することに違和感を覚える人が多いのです。
練習の積み重ねがないから

絵師として評価される人々はデッサンや模写を繰り返し、独自の画風を確立するために膨大な時間を費やしています。その努力の過程全体が、絵師という存在の価値を形成している、という考え方があります。
画像生成AIはツールを使えば誰でも短時間で質の高いイラストを出力できてしまいます。長年技術を磨いてきた人から見ると、この「努力のショートカット」が同じ「絵師」という土俵に立つことへの不公平感や違和感を生む原因となっています。
学習データに信頼性がないから
多くの画像生成AIはインターネット上にある膨大な画像を学習データとしています。データの中には、イラストレーターが描いた作品が無断で含まれている可能性が指摘されています。自分の作品が知らないうちにAIの学習に使われることを快く思わないクリエイターは多いです。
特定の作家の画風を模倣する「LoRA」のような技術は、オリジナリティやブランドを侵害する行為と見なされることがあります。倫理的な問題を抱えたツールを使う人を「絵師」と呼ぶべきではない、という意見は根強く存在します。
「AI絵師」の名称について

「AI絵師」という呼び方や存在を肯定的に捉える意見もあります。AI絵師に対する肯定的な意見を深掘りして解説します。
- そもそも「絵師」の定義とは
- 呼び名より作品の中身が大事
- 指示を出すのも一つの技術
- 「絵を描く」の形は変わる?
そもそも「絵師」の定義とは
歴史的に見れば「絵師」は浮世絵などを描く職人を指す言葉でした。現代ではインターネット上でイラストを公開する人を指す、ややスラング的なニュアンスで使われることが多いです。プロ・アマを問わず、絵を描く人への敬意を込めて使われる傾向が見られます。
「絵師」という言葉に厳密な定義はありません。「手で描くこと」を必須条件と考える人もいれば「魅力的な絵を生み出す人」と広く捉える人もいます。言葉の定義が人によって異なるため、終わりの見えない論争になるのです。
呼び名より作品の中身が大事

どのようなツールを使ったかというより、最終的に生み出されたアウトプットの質や、それをどう見せるかの方が重要だという考え方もあります。手描きであろうとAIであろうとユーザーの心に響く魅力的なコンテンツを継続的に発信できるかどうかが重要です。
「AI絵師は絵師ではない」と他者を批判するより、手描きの良さをアピールしたり、独自のブランディングを確立したりする方が建設的だという考え方もあります。
指示を出すのも一つの技術
画像生成AIは誰でも簡単に使える一方で、独創的な作品を生み出すには相応の知識と試行錯誤が必要です。AIへの指示にどのような単語を選び、どう組み合わせ、どの要素を強調・除外するかといったプロンプトの構築には、独自のノウハウが必要です。
AIを単なる自動化ツールではなく、自分のイメージを具現化するための「新たな画材」や「パートナー」と考えてみましょう。この観点に立てば、プロンプトを駆使して作品を生み出す行為もまた、創造的な技術の一つと言えるかもしれません。
「絵を描く」の形は変わる?

テクノロジーの進化に伴い「絵を描く」「創作する」という行為の定義そのものが変化しています。写真が登場したとき一部の画家は「絵画の終わりだ」と危惧しましたが、実際には絵画も写真もそれぞれが独自の芸術として発展しました。
AIによる画像生成も技術革新の延長線上にあると捉えられます。AIの登場によって、これまで絵を描く技術を持たなかった人も、気軽に創作活動に参加できるようになりました。
創作の手段が多様化する中で、従来の「絵師」の枠に収まらない、新しいタイプのクリエイターが登場するのは自然な流れなのかもしれません。
AIと創作活動のこれからと知っておきたいこと

論争を踏まえ、私たちはAIと創作活動にどう向き合えば良いのでしょうか。ここでは、トラブルを避けるための発信方法や、これからのクリエイターに求められるスキルなど、未来に向けた実践的なポイントを解説します。
- トラブルを避けるための発信方法
- 手描きとAIを上手に使い分ける
- AIにうまく指示する力も大切
トラブルを避けるための発信方法
AIを利用して創作活動を行ううえで、無用な炎上やトラブルを避けるためには、透明性のある発信を心がけることが重要です。AIで創作活動を行う際の注意点は以下のとおりです。
- AIで生成したことを明記する
- 「自分で描いた」と表現するのは避ける
AIで生成したことを明記する
投稿に「#AIイラスト」のようなハッシュタグを付けたり、プロフィールにAI利用の旨を記載したりするのがおすすめです。手描きのイラストを探している人の検索の妨げになるのを防ぎ、見る側が作品の背景を正しく理解できます。
「自分で描いた」と表現するのは避ける
AIで生成した作品を「自分で描いた」と表現すると、クリエイターコミュニティから厳しい批判を受ける原因となります。不要な炎上を避けるためにも「生成した」「AIで作った」といった言葉を選びましょう。
手描きとAIを上手に使い分ける

AIを敵と見なすのではなく、それぞれの長所を活かして戦略的に使い分けるという考え方もあります。具体的には手書き専門のアカウントとAI生成専門のアカウントを使い分ける戦略がおすすめです。
AIはSNSで注目を集めるためのコンテンツを迅速に大量生産するのに適しています。AIの強みであるスピードと拡散力を活かしつつ、別の専門アカウントで運用することで、手描きのブランド価値を損なうことなく、活動の幅を広げることが可能です。
どちらか一方を選ぶのではなく「手描き」と「AI」の両輪で活動することは、これからの時代に適応する賢明な戦略と言えるでしょう。
AIにうまく指示する力も大切
誰もがAI画像生成を使える未来では、AIに的確な指示を与えて高品質なアウトプットを引き出す「ディレクション能力」が重要です。
AIは出力された内容が正しいかどうか判断できません。例えば歴史的な衣装や機械の構造など、専門的な知識が必要なイラストを生成させた場合に間違いを起こしやすいです。
着物の帯の位置がおかしい、物理的に不可能な持ち方をしている、といった不自然な点を人間が見抜き、修正を指示する必要があります。
確認作業を怠ると誤った情報を含んだコンテンツを世に出してしまうリスクがあります。何度もAIに修正を繰り返させる手間を考えると、最初から専門知識のあるイラストレーターに依頼した方が効率的な場合もあります。
クリエイターがAI時代を生き抜くための5つの戦略

変化の時代を乗りこなし未来を切り拓くために、クリエイターが今からできることを5つの視点で考えてみましょう。
- AIを創作活動に活用する
- 独自のブランドを形成する
- 共感を生む「物語」を作る
- 一つのスキルに固執しない
- 基礎的なスキルを磨き続ける
AIを創作活動に活用する
AIは敵ではありません。AIを脅威と捉えるのではなく創作活動をサポートするツールと捉えることが大切です。作業の効率化や新しいアイデアのきっかけとしてAIを活用することで、創作活動がさらに楽しくなります。
AIには以下のような活用法があります。
- アイデア出し
- ラフ制作
- 背景や素材の制作
- 参考資料の調査
AIをアシスタントとして使いこなすことで、クリエイターはより創造性の高い部分に時間とエネルギーを集中させられます。技術を否定するのではなく賢く利用することで、作品のクオリティと生産性を向上させることが可能です。
独自のブランドを形成する

AI時代にクリエイターが活躍し続けるには「あなただからお願いしたい」と言われる強力な独自ブランドの形成が不可欠です。生成AIは特定の画風を模倣できても、作家自身の個性や作品に込めた世界観、クライアントとの信頼関係といった、属人的な価値までは再現できないからです。
独自の世界観を押し出すだけでなく、丁寧なコミュニケーションや確実な納期管理といったプロとしての姿勢も、AIにはない人間ならではの価値であり、強力なブランドの一部となります。
SNSやリアルでの交流の場を増やして、独自のコミュニティを形成するのもおすすめです。単なる「絵を描ける人」から脱却し、作品や活動全体でファンを魅了する、唯一無二の「クリエイターブランド」を確立しましょう。
共感を生む「物語」を作る
AIが生成したイラストと人間が描いたイラストの決定的な違いは、作品の背景にある「物語」です。人間は美しいイラストそのものだけでなく、その作品が生まれるまでのストーリーや、作者の想いにも心を動かされます。
- 作者がどのような経験をしてこのテーマにたどり着いたのか
- 制作過程でどのような苦労や発見があったのか
- この作品を通じて何を伝えたかったのか
これらの物語は作品に深みと共感を与え、ファンとの強い絆を育みます。AIが生成したイラストには、この人間的な文脈が存在しません。自身の活動や作品にまつわる物語をSNSで積極的に発信し、ユーザーとの関係性を築くことが重要です。
一つのスキルに固執しない

AIの台頭によってイラストレーション業界の構造は大きく変化していく可能性があります。説明のための挿絵や個性を問われない量産的なイラストの需要は、AIやフリー素材に置き換わっていきます。
イラストを描くという単一のスキルに固執せず、複数のスキルを掛け合わせて自身の価値を高める視点が重要です。イラストレーターとしての基礎能力を軸に、新たな分野へ挑戦することが生存戦略となり得ます。
Live2Dや3Dモデリングを学んでイラストを動かせるようになったり、デザインの知識を深めてより訴求力の高い制作物を作れるようになったりするのもおすすめです。自身の経験を活かしてイラストの描き方を教える講師になる道もあるでしょう。
基礎的なスキルを磨き続ける
AIの技術がどれだけ発達しようとも、クリエイターとしての活動の土台となるのは、自分自身が持つ専門的なスキルです。AIの性能を最大限に引き出して優れた作品を生み出すためには、使い手である人間のスキルが不可欠になります。
基本的なスキルがなければ、作品の良し悪しを正しく判断することすらできません。
- デッサンの知識がなければ人物の骨格の違和感を見抜けない
- 色彩理論を理解していなければ配色の良し悪しがわからない
AIは無数の選択肢を提示してくれますが、その中から最適解を選び出し、さらに洗練させていく「キュレーション能力」こそ人間にしかできない領域なのです。
AIがあるからといって自分のスキルを磨かないクリエイターは他の人と同じことしかできないため、残念ながら仕事を失うでしょう。AIに負けないためには基盤となるスキルを磨き続ける姿勢が何よりも重要です。
まとめ
AI絵師と絵師をめぐる議論は、技術、倫理、そして「創作とは何か」という根源的な問いを私たちに投げかけています。この記事で解説した、対立する双方の意見や背景を理解し、多角的な視点を持つことが重要です。変化し続ける創作の世界で、自分なりの考え方を見つけていきましょう。